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公開日:2018年9月10日

緊急事態!!「もし利用者が死を望み、絶食を始めたら」

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吉田 匡和(介護ライター)


介護サービスでは介護職員がクローズアップされがちですが、相談援助業務を行う生活相談員も欠かせない存在です。人の機微に触れ、時には人の人生を左右する難しい判断を迫られることがあります。自ら死を希望する人に、どのように対応すべきか。これまで筆者が体験した中で、2番目に困難だった話をさせていただきます。



面会のない利用者


大竹次郎氏(仮名)が特別養護老人ホームに入所したのは、3年前のことでした。3つ隣の〇△町の出身。30歳で離婚し、以降は妻や子供たちと疎遠になったと言います。唯一の肉親と言える同町に住む実姉が入所時の身元引受人になってくれましたが、「それ以外の関係は持ちたくない」と断絶され、現在まで面会はおろか、誰からも電話や手紙が来ることはありませんでした。

入所の経緯は、生活保護を受けて同町で一人暮らしをしていたものの、大量な飲酒が原因と思われる重度な糖尿病を患い、合併症状として右目失明と右足切断により独居生活困難とのことから、〇△町の福祉課を通して緊急保護的に入所となりました。

一人暮らしが寂しかったのか、大竹氏はすぐに施設に慣れ、通りすがりに女性職員にちょっかいを出す茶目っ気を発揮します。認知症はなく、片足だけながら椅子やベッドに移ることや、トイレで立って用を足すことが可能でした。そんな大竹市に異変が起きたのは、入所3年目の冬のことでした。



唯一の肉親の死

突然大竹氏は「姉に会いたい」と言い出しました。自分以外の者に面会や電話があるのを見ているのだから、人恋しさも無理がありません。身元保証書に記載されている姉のところへ連絡しました。姉とは身元引受人になる条件として、「死亡時以外は一切連絡をしない」と言う約束を交わしていましたが、本人の様子が尋常でなく、やむをえないと判断しました。しかし電話は「使われておりません」を繰り返すだけです。〇△町に事情を話し、姉の行方を調べてもらうと、すでに半年前に亡くなったとのことでした。

大竹氏は、顔を合わせるたびに「いつ姉と会える」と聞いてきます。いつまでも誤魔化しているわけにも行かず事実を伝えると、「そうか・・・」と言って肩を落としました。



自ら死を選ぶ


もともと食の細い大竹氏でしたが、その後、突然絶食を始めました。理由を尋ねても「食べたくない」「食べたら吐いてしまう」「もう死んでもいい」と言い放ちます。看護師が医療機関に連れて行き検査を行なったものの、胃カメラを飲み込むことができず原因は不明。レントゲンや採血からも特別変わった点はなく、精神的なものと判断され「しばらく様子を見ましょう」と言って戻されました。

その後も食は細く、職員がいくら促しても嘔吐しながらオニギリを一つ食べるのがようやっと。また、ふさぎこんで寝ていることが多く、見る見るうちに衰弱してきました。介護員は困り果て、栄養士は「栄養が足りない、何とかして欲しい」と、看護師と相談員に噛み付きます。「何とかして欲しいと言われても手は尽くしたし、声かけや促しても本人が拒絶する以上、方法がない」と看護師も困り果てていました。

大竹氏に「お姉さんのことはお気の毒でした。他に会いたい人はいないですか」と尋ねると、「小林医院の先生に会いたい」と言います。小林医院はかかりつけ医院であり、いつも親身に聞いてくれる医師だったそうです。小林医院に電話をすると、大竹氏を覚えており、会いに行くことを快諾してくれました。しかも高齢のため、今月一杯で廃業する予定だと言います。

二日後、吹雪の中、大竹氏を連れて小林医院に向かいました。小林医師は暖かく迎え入れ、大竹氏の表情も柔和になりました。これですべてが解決してくれたらと願ったものの、結局、一時的な解決にしかならず、相変わらず食事が取れないままに時間が過ぎました。大竹氏は、「死にたい」「おやじやおっかあ、姉ちゃんのところに行きたい」と繰り返すばかりでした。



苦渋の決断


このままでは入所中に餓死すると言う最悪の結果を招くことになります。施設長を含めて検討した結果、「入院させることしか方法がない」との見解に達し、協力病院である療養型病院に相談することになりました。病院のソーシャルワーカーは身寄りのないことに抵抗を示しましたが、介護度が高いことや、入院手続きを施設が、事後のやり取りについては、〇△町が担当することで承諾が得られました。

それから数日後、病院から「入院中においてもまったく食事を取らず、生命を維持できないとの理由から胃に穴を開けて栄養分を送り込む手術をする」と連絡が入りました。すでに退所手続きを済ませていたため、〇△町の判断に委ねます。

半年後、療養型病院に用事があったため、大竹氏の病室を訪れてみました。栄養チューブを抜き取るため、手をベッド柵に縛り付けられていたものの、栄養分は足りているようです。こちらに気づくと「紐、外してくれ」と言いました。死ぬことを希望していた人が、死ぬことを許されず生きている姿がそこにあります。

「残念ですが、もう大竹さんと私をつなぐものは何もありません。紐を解くことも、解くように頼むこともできないのです。あの時ちゃんと食べてくれれば、こんなことにはならなかったのに」と言い、病室を後にしました。



夢の中で


それから4年後のある日、夢を見ました。夢の中には大竹氏が出てきてこう言いました。「あの時死なせてくれればよかったのに」と。大竹氏が亡くなったことを直感しました。今でもあの時の判断が正しかったのかと言う思いに駆られます。



■著者■ 
吉田 匡和
介護ライター
福祉業界では20年のキャリアを誇り、福祉系専門学校教職員、老人保健施設相談支援員、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター生活相談員、特別養護老人ホーム事務長として勤務。退職後はフリーライターとなり、WEBを中心に活動している。社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターの資格を保有。
HP:https://buleorca.webnode.jp/


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