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公開日:2018年8月6日

ケアの質の向上が人を育て、人につながる「札幌市・和幸園の取り組み」後編

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吉田 匡和(介護ライター)

多職種の協同のもと、オムツゼロを目指す和幸園でしたが、前例のないケアについていくことができない、考え方が合わない等の理由で、何人かの介護職員が去っていきました。一方で、和幸園の取り組みに共感した人たちが新しくスタッフとして加わり、新たな体制が作られていきます。

尊厳を尊重し人間らしい生活を取り戻す

オムツゼロの取り組みは、利用者の生活を変えていきます。はっきりと意識がある時間が長くなり、居眠りをすることが少なくなったほか、介護を拒否したり不穏だった方が穏やかになる、あまり話をしなかった方が言葉を発するようになる、尿意がないと思われていた方が、手を挙げて尿意を意思表示したり、トイレで介護職員を待つなどの行動が見られるようになりました。

「これまでオムツだった方が、トイレで排せつができるようになり、家族と一緒に泣いて喜んでいた」と職員が話してくれました、平松朋紀常務理事は言います。私たちが思う以上に、利用者にとってオムツで排せつすることが屈辱的で、自尊心を傷つける行為であることがわかるエピソードです。

ケアの向上は職員のモチベーションに繋がる

利用者の変化とともに、職員にも変化が見られるようになりました。指示を受けて行動するのではなく、自ら考える介護職員が増えていき、ケアのスキルが上昇していきます。「立ち上がりや不穏はトイレのサイン」、「どうするともっと水分を摂取してくれるだろう」、「オムツ交換の方が腰に負担がかかっていた」など、不満よりも前向きな意見が交わされていました。平成23(2011年)12月15日に、ついに日中オムツゼロを達成。これまでの努力が実を結びました。

オムツゼロの取り組みの推移

  水分摂取量
平成21年5月 550㎖
平成24年8月 1,412㎖
  浣腸使用本数
平成21年8月 218本
平成24年8月 29本
  オムツ使用人数
平成21年6月 84人
平成23年12月 0人

平松常務理事は、「これまでの介護職員は、上司や他専門職の指示に従って業務を行うルーティーンを主としてきましたが、オムツゼロの取り組みの中で、専門職として誇りと自信を持ち、自ら考え行動することができるようになりました。認知症ケアにも積極的に取り組み、難しいケースでも積極的に受け入れケアしていこうという考えが浸透してきました。」と言います。個別ケア委員会に立候補した若い職員もスキルを上げ、それぞれのセクションで重要な役割を荷うまでに成長を遂げるなど、各所に効果が波及しました。

施設から地域へ

オムツゼロを達成した翌年に、札幌市内のホテルに専門学校生や同業者を招待した報告会を実施。オムツ外しの効果として、利用者のADLやQOLが向上し、精神状態が安定したことや、職員もトイレ誘導がごく普通のケアであると言う認識が浸透するとともに、レクリェーションなどを自発的に計画するなど、仕事にやりがいを感じていることが伝えられました。その話に共感した学生が、和幸園で働くことを希望するなど、採用にもつながっています。

和幸園では、これらの取り組みで得たノウハウを地域で生かすべく「認知症改善塾」を開講。在宅ケアにおける認知症に伴う行動・心理症状の改善を目的とし、認知症の方を抱える家族に基本ケアの重要性や実践内容に対する助言を行っています。期間は6か月間で、毎月1回無料で開講。毎回10人前後が参加するなど、地域貢献にも役立てられています。

施設を見学しました

昭和50(1975)年に開設した和幸園は、平成26(2014)年に改築され、多床室からユニットケア・入所定員100人から120人に変更されました。普通の暮らしができる家をコンセプトに、昔の大家族のように、利用者と職員が一緒に暮らす雰囲気を大切にしています。

■家にこだわる

各ユニットの基本構造は同じながら、掲示物やテーブルのレイアウトなど、それぞれに個性が現れています。ユニットに入るためには、「玄関」で履物を脱ぐなど、ここが家であることが強調されています。職員は全員私服であるのも、家である証と言えるでしょう。

■ひとつのユニットに異なるトイレが5つ

1ユニットに10人から12人が暮らしています。トイレは体に合わせてひとつのユニットに5つ用意。いくつもの手すりを配置するなど、トイレで排せつするための機能が重視されています。当然のことながら、老人ホーム特有の便や尿の匂いがしません。オムツ交換を行っていないことも大きな要因ですが、清掃が行き届いていることも伺えます

■ 平均介護度は4.0ながら寝たきりゼロ

車椅子に移乗させてホールに連れ出すことを「離床」と呼ぶ施設が多い中、和幸園の利用者の平均介護度が4.0と高い傾向にありながら、しっかりと生気の宿った目をしてラウンジで過ごしていることに驚かされました。

トータルなマネジメントが施設全体を向上させる

今回の取材で、よい施設を作るためには、どこか一つを手厚くするのではなく、トータルなマネジメントが必要なことを痛感しました。ケアの質を上げれば、それに邁進する職員が活躍し、さらに成長する。知識や能力が得られれば自信が付き、自主的な活動が増える。利用者が明るく元気になれば、仕事に誇りが持てる。そして生き生きと働く先輩の姿にあこがれ、新しいスタッフが加わる。まさに理想的な状況と言えます。 平松常務理事は、「オムツゼロがゴールではありません。人の生活を支えるというのは非常に奥が深く、尊いものです。他の施設から学ばなければならないことも多くあります。まだまだ、課題は山積しています」と言います。しかし、どんな困難があっても、オムツゼロを達成したバイタリティで乗り越えていける力強さが和幸園にはある。そう感じずにはいられない施設でした。 関連リンク 従業員・子ども・雇用主・利用者に幸せが波及する「企業主導型保育事業」のススメ https://yts.jp/article/c-852/

■著者■ 
吉田 匡和
介護ライター
福祉業界では20年のキャリアを誇り、福祉系専門学校教職員、老人保健施設相談支援員、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター生活相談員、特別養護老人ホーム事務長として勤務。退職後はフリーライターとなり、WEBを中心に活動している。社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターの資格を保有。
HP:https://buleorca.webnode.jp/

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