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公開日:2018年6月26日

クレプトマニア(窃盗症)の認知症高齢者へ対応事例

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太田文弘(医療ソーシャルワーカー)

「嗜癖(しへき)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「嗜癖」の「嗜」は、「嗜好品(タバコやアルコール)」の「嗜」、「嗜む」はたしなむと訓読みされます。 広辞苑を調べると「あるものを特に好きこのむ癖」と書いてありますが、この説明はあまりに簡単すぎて、「困った事態」をいうニュアンスが欠けています。

クレプトマニアとは

クレプトマニアとは「万引きの嗜癖」「窃盗症」です。 万引きは刑法235条に該当する窃盗罪です。そのため、これまでは司法の分野でのみ問題解決がされてきました。 芸能やスポーツなどの分野で確固たる地位を築いたセレブが万引きで逮捕されたニュースは、ゴシップとしてワイドショーなどで扱われています。

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しかし最近になって、クレプトマニアも「ギャンブル依存症」や「アルコール依存症」「薬物違反」と同じく、「病い」として取り上げられるようになってきました。 年齢層は幅広く女性に多いとされ、合併症として「拒食症」が多く見られます。

アメリカではすでに病名としてクレプトマニアが浸透していますが、残念ながら治療期間も短く、蓄積もないのが現状です。
万引きも薬物もそれぞれ法律違反であり「犯罪者」として扱われますが、日本にも「薬物依存症」は「ダルク」という自助組織があり、グループワークなどを通じて薬を絶つ「訓練」がされています。 しかし、「窃盗癖」は自助グループがわずかしかないこと、家族や本人に後ろめたさもあり、治療にはつながっていません。


近年このクレプトマニアが浸透してきたのは、高齢者の窃盗が増えてきたことが一因にあります。また高齢者の場合、「認知症」が大きな一因を占めているとデータで示されています。(犯罪白書より)
しかし、事情を理解できない被害者(スーパーやコンビニなど)は警察に通報し、連行されます。以前なら起訴されて執行猶予が多くその執行猶予の間に再犯を犯し、刑務所に収監されていました。そして退所後また再犯を繰り返す悪循環でした。そこで法務省も窃盗癖は重大な問題と受け止め、福祉分野に頼る傾向になってきました。
いわゆる「司法福祉(リーガルソーシャルワーカー)」です。

累犯を重ねるXさんのケース

今回取り上げるケースは、本人、家族に同意を得て倫理的配慮を行っています。
Xさん(女性70代後半、要介護1)、認知症(長谷川式簡易スケールで25/30)は検査場では確認できませんでした。

Xさんはすでに累犯を重ね、刑務所に収監されていましたが、出所が近くなり、社会福祉士から当院精神科に相談があり、医療ソーシャルワーカーが対応しました。
個人情報の問題があり、刑務所側からは充分な情報を得ることはできませんでしたが、家族と面接する設定を組んでもらい来院してもらいました。

当初家族は、「犯罪者が家族にいると思うと世間に顔向けできない」と思っていたようです。
しかし刑務所の社会福祉士から「立派な病気」と言われて気が軽くなったようですが、出所後に再犯したらどうすればよいのか、途方に暮れているようでした。

万引きした時の話を聞くと、現金は充分に持ち合わせていたようです。
万引きはいつも同じスーパーで、検察官はそれを悪質と判断、裁判で実刑になったようです。

本人に万引きの自覚はなく、「金は払った」「盗んでいない」「これから払おうとしていた」などと証言していたようで、再犯のリスクがあったため、出所後まずは家族の了承のもと、認知症検査を再度行うことから始めました。

再検査の結果、脳委縮が顕著であること、長谷川式簡易スケールで5/30点と大幅に低下しており、「アルツハイマー認知症」と診断されました。
混乱する家族に医療ソーシャルワーカーとして助言したのは、スーパーや本人が立ち寄りそうな所の店主に事情を説明し、もし万引きをした時には、まずは家族に連絡してもらうシステムの構築でした。連絡後に代金を支払いたいと要望を伝え、事情を把握した店主より了解をもらいました。
また最寄りの警察署に出向き、医師が書いた診断書を提出、通報があった場合の理解を求めました。
警察の方は釈然としないようでしたが、本人が認知症であることと、スーパー側から被害届が出ないのであれば、捜査は出来ないと同意してもらいました。

その後も、何度か万引きしてしまい、家族にも負担はかかったのですが、店主が理解してくれたおかげで「犯罪者」にならないで済むことが出来たのです。

クレプトマニアには周囲の環境整備を

このような対処によりXさんの逮捕はなくなりました。
認知症もあり、窃盗癖も改善することは難しく、周りの環境を整えることが重要です。
Xさんは、デイサービスでも他の利用者の物を持って帰ってくるので、その事情もデイサービス側に説明し理解を求めました。
相手側家族も「認知症なら仕方ない」と理解を示してもらい、次の利用日の送迎時に職員に返却する形をとっています。

クレプトマニアへの対応は、まだ日本では理解度は低いですが、犯罪者として扱うことだけでなく、きちんと司法側にも認知症の理解をする啓発活動が重要になってくるのではないかと思っています。

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