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公開日:2018年11月7日

勤続10年以上の介護職員に2千億円投入! 離職防止の起爆剤になるか?!

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吉田 匡和(介護ライター)

厚生労働省は、介護現場従事者の賃金を上げるため、2019年10月に介護報酬を臨時に改定する方針を固めました。同月の消費税率引き上げによる増収分1千億円と保険料1千億円の計2千億円を、勤続年数の長い介護職員を中心に処遇改善のために投入する予定です。新報酬は離職防止の起爆剤になるのか。制度の詳細と課題を紹介します。

介護報酬改定の目的


本報酬創設の大きな目的は「介護職員の確保」です。介護職の有効求人倍率は上昇傾向にあるものの、必要とされる介護職員数が充足目標に届いていないのが現状です。厚生労働省は2018年6月に、団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度に必要とされる介護職員数に対し確保できる見込み数の割合を「都道府県別介護職員充足率」として発表しています。それによると福島県、千葉県が74.1%と最も低く、必要な職員数の4分の3に届かない見通しです。充足率が最も高い山梨県の96.6%と20ポイント以上もの差が生じています。全国平均は86.2%。100%確保できると回答した都道府県はありませんでした。



国は2017年に介護職員の離職防止策として、「キャリアパス要件」「職場環境等要件」を満たすことで加算請求が可能な「処遇改善加算」を創設しました。今回の介護報酬の改定は、勤続年数が長くても給料があまり上がらない介護職員の現状を改めることにより、介護の仕事を選ぶ人を増やしたり離職を防いだりすることを目標としています。



介護職員処遇改善加算との違い


介護職員処遇改善加算が、全介護職員を対象としていたのに対し、今回の介護報酬改定は推計約20万人いると言われる勤続年数10年以上の介護福祉士の賃金引き上げを対象としています。これにより対象となる介護職員などの月額が8万円アップ。開設間もない法人や転職歴のある人に考慮し、複数の法人に渡って10年以上介護業務に従事した人も「勤続10年」とみなしたり、生活相談員や事務職員にも適応するなど、介護職員以外にも充てられる加算を設ける方針が、社会保障審議会介護給付費分科会で示されています。



新介護報酬の課題


2千億円ものお金が介護業界に流れるため、「みんなも介護の仕事を長く続けて賃金アップを目指そう」という状況になっているわけではないようです。新報酬の課題をまとめました。



事業所の離職対策を評価せず一律に支給


介護業界は人材不足であり、どの事業所でも何らかの離職対策を講じています。本サイトでも独自の奨学金制度を設けたり、企業主導型保育園を併設し、職員の働きやすさに力を入れている事業所を紹介してきました。しかし中には離職の原因追及や、労働環境の改善を図らず、次々と人が入れ替わる事業所も少なくありません。「努力せずに賃上げができる」と、ほくそ笑む事業者もいるはずです。新報酬は事業所の離職対策を評価せず一律に支給することに問題があります。



介護職を10年間続けている人は少ない


2018年度の公益財団法人 介護労働安定センターの調査によると、離職者の在籍期間は2年以上5年未満が約30%と最も多く、10年以上20年未満は約17%と低いことが分かります。厚生労働省は今回の新報酬の目的を介護職員の確保としていますが、介護職を長く続ける人に報酬を設ける一方で、約50%も存在する5年以内の離職者への対策も同時進行させなければ介護職員の確保は困難でしょう。


勤続年数別個別回答労働者数構成比較


9.4% 13.5% 29.9% 24.3% 17.3% 2.3% 3.4%
1年未満 1~2年 2~5年 5~10年 10~20年 20年以上 無回答

公益財団法人 介護労働安定センター調べ


http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/h29_roudou_genjyou.pdf



長く勤務することが評価に値するのか


日々自己研鑽に努め、時間と共にスキルをアップしていくことがキャリア形成に不可欠ですが、そうした努力を怠り、単に長く勤めているだけの職員も存在しています。逆に利用者本位の介護を行い、周囲から信頼を得ている若手もいます。日本は長年の年功序列を捨てて、成果主義を選択したはずですが、新報酬は逆行したシステムが採用されています。頑張っている人も、頑張らない人も、一律8万円の報酬は不公平であり、ベテランと言うだけで優遇される点も有望な若手の意欲を削ぐことになりかねません。



人材流出抑制の特効薬になるのか


新報酬の賃上げには、消費税率の10%への引き上げによって得られる「血税」が財源として充てられます。年間費用は約2千億円。このうち公費はおよそ1千億円、残りは40歳以上の保険料と利用者の自己負担で賄われます。介護職員の離職理由は報酬の少なさだけでなく、人間関係、労働環境、事業所との理念の違い、上司の評価に対する不満、体調や精神面での問題など多岐にわたり、ベテラン職員の給料が月々8万円上乗せされたことで大きな変化が現れないことは、業界のみならず厚生労働省も熟知しているはず。12月までに大枠が決定する予定ですが、効果のないバラマキ政策にならないよう、大切な財源を有効活用できる内容にしてほしいものです。



■著者■ 
吉田 匡和
介護ライター
福祉業界では20年のキャリアを誇り、福祉系専門学校教職員、老人保健施設相談支援員、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター生活相談員、特別養護老人ホーム事務長として勤務。退職後はフリーライターとなり、WEBを中心に活動している。社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターの資格を保有。
HP:https://buleorca.webnode.jp/


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