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公開日:2018年11月6日

高齢者を対象としながら高齢者専用ではない。「ゆいま~る高島平」が人気の理由

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吉田 匡和(介護ライター)

昭和40年代、「ニュータウン構想」により、全国的に大規模な団地の建設ラッシュが始まりました。高層住宅が珍しかったことから、さまざまな世代が移り住み、活気ある営みが形成されていきました。しかし時の流れとともに団地の老朽化が進み、1990年代中頃には、空室が目立つようになり、団地の高齢化や孤独死が社会問題となります。



東京都に本社を置く「株式会社コミュニティネット」は、こうした課題を解決するための方策として、2014年12月に、全国で初めてUR団地を利用した分散型サービス高齢者住宅を東京都板橋区の高島平団地にオープン。高齢者と他の世代が共生できるコミュニティの構築が図られています。



高島平団地の光と影


ニュータウンと呼ばれる団地群は郊外にあることが多い中、高島平団地は都営地下鉄三田線沿線というアクセスのよい場所に建設されました。オープン当時は入居希望者が殺到し、1991年には2万5千人も住んでいましたが、その後は建物の老朽化などにより若年層の人口流出が進み、住民の多くを高齢者が占めるようになりました。



2012年の統計によると、65歳以上の入居者は全体の41.1%であり、住民間の交流が少ない独居世帯が多かったことから、人知れず亡くなっている「孤独死」が多発する時期もありました。現在の高島平団地は、建物こそ古いものの駐輪場に自転車や三輪車などが置かれるなど、若い世代の暮らしが感じられる普通の団地となっています。



日本初の分散型サ高住「ゆいま~る高島平」


「ゆいま~る高島平」は、複数ある団地群の1棟を利用。全部で121戸あるうち、棟の中に分散している42戸をバリアフリー化してサービス付き高齢者住宅(以下サ高住)として使用しています。「高齢者専用」ではなく、同じ棟に一般の入居者が住んでいるのが大きな特徴です。敷地内にはスタッフが常駐し、あらゆる生活の相談や安否確認に努めています。ハウス長の古川才乃氏に話を伺いました。



「ゆいま~る高島平」には、現在41戸に女性35人、男性11人、うち夫婦世帯5組が入居しています。平均年齢は79.5歳、最高齢者は93歳。近くに肉親や知人が住んでいる縁で、東北や関西から移住した人もいます。フロントには生活コーディネーターが常駐し、生活に関する相談を直接受けるほか、入居者が携帯する緊急通報装置から発信される連絡をもとに安否確認が行われています。緊急通報装置はセコムと提携し、夜間や突発的に起きた緊急時には、すぐに同社のスタッフが駆けつけて対応します。



最新機器が活用される一方、高島平団地の人情は健在なようで、「先日、セコムから体調を崩した入居者がいると連絡があり、駆け付けたところ、すでに普段から親しくしている他の入居者の方が、搬送の準備を済ませてくれていました」と、古川ハウス長が住民間の助け合いを彷彿とさせるエピソードを語ってくれました。



シニアの楽園。その理由とは?


一時はネガティブなイメージが強い高島平団地でしたが、住人や大学など教育機関によってコミュニティの形成が図られ、人とのつながりが強化されています。「高島平シニアガイド」によると、団地付近には、老人クラブ6か所、サロン39か所、コミュニティスペース6か所、集いの場5か所、助け合いの会3か所、相談所9か所が存在する充実ぶり。



それらはボランティアによる無償で運営され、「シニアの楽園」と呼ばれるほどコミュニティが充実しています。サ高住の入居者も参加できるため、従来のサ高住より住民と交流する機会が広がっています。近隣に食堂がないことや、一人で食事を採る入居者が多いことから、ボランティアが作る食事や宅配の注文など、大勢で食事をするイベントが定期的に開催されています。



入居者に話を伺いました


「ゆいま~る高島平」にお住いの高橋和子さんに話を伺いました。外観は普通の団地の一室ですが、中はバリアフリーにリフォームされたうえに、高橋さんの希望で好みに応じたオーダーが施されています。この日は気温が高く汗ばむ陽気でしたが、秋風が心地よく通り抜けていきました。



1DKの間取りは、一人暮らしには申し分のない広さで、そこにセンスの良い調度品が置かれ、壁には数点の絵が飾られています。部屋に対する感想を伺うと、重ね塗りによりボコボコになっているドアやベランダの塗装に、UR団地のメンテナンスの悪さを感じているものの、他に不満らしい不満がないと、ここでの暮らしを気に入られているそうです。



高橋さんは、東京都世田谷区のマンションで、ご主人と二人で暮らしていましたが、7年ほど前に夫が他界。お子さんがいなかったことから、お墓や看取りのことを考えているときに、サービス付き高齢者住宅の存在を知り、「元気なうちに決断しよう」と入居を決めました。



数あるサ高住の中から「ゆいま~る高島平」を選んだ理由として、分散型であることを挙げています。「もともとは違うサ高住を検討していましたが、一つの建物に高齢者だけが生活していることに違和感がありました。『ゆいま~る高島平』は、子供の声が聞こえたり、いろいろな世代がいます。老人が対象でありながら、老人専用ではない。これは魅力です」と、これまでにない高齢者住宅の良さを伝えてくれました。



高島平団地の付近に食堂がなく、最初はそれに不安を感じていたそうですが、現在は「ないことの良さ」を感じ、友達と連れ立って外食に出かけることもあるといいます。世田谷のマンションでも住民間の交流があったものの、あまりプライバシーに立ち入らない関係でした。「ゆいま~る高島平」の入居者には「同志」と言うシンパシーを感じているそうです。



これまで通りの生活を継続することが求められている


年齢、性別、職業、思想など、さまざまな人が混在して社会を形成しています。しかし高齢者や障害者での領域は、一つの地域や建物に集約され、外界との交流が絶たれてしまう傾向が見られます。今回の取材で、「ノーマライゼーション」と言う使い古された概念の大切さを再確認しました。



高齢者が求めているのは、特化した付加価値ではなく、社会の中で他の人々と同じように生活し活動すること。高橋さんの、「老人が対象でありながら、老人専用でない。これは魅力です」と言う言葉に、「ゆいま~る高島平」をはじめとする分散型サ高住が人気の理由が集約されていると感じました。



■著者■ 
吉田 匡和
介護ライター
福祉業界では20年のキャリアを誇り、福祉系専門学校教職員、老人保健施設相談支援員、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター生活相談員、特別養護老人ホーム事務長として勤務。退職後はフリーライターとなり、WEBを中心に活動している。社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターの資格を保有。
HP:https://buleorca.webnode.jp/

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