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『文庫本X』の本質|笹井清範の「本日開店」

2017年8月24日


制作:月刊「商業界」編集長 笹井清範

『文庫X』をご存知ですか。
昨年7月、岩手・盛岡市の一書店が、ある文庫本の表紙にカバーを掛け、書名と著者名を隠して販売した企画です。
売場の一部でスタートした小さな試みでしたが、興味をそそられたお客が続出、4カ月半の販売期間で5034冊売り上げました。
ピーク時には1日に206冊、1カ月で1713冊と、一書店では考えられない販売実績を記録しました。
さらに、この企画は全国の書店にも波及し、650以上の書店で『文庫X』現象が巻き起こり、結果30万部を超えるベストセラーとなったのです。

「企画」と書きましたが、企画ありきで行われた単なる販促手法ではありませんでした。
「企画ありきで本を選んだのではなく、この本を多くの人に読んでもらうためにはどうしたらいいか考えた結果、中身を隠して売ることにしたのです」と、同店の文庫担当であり発案者の長江貴士さん。
モノを売るための販促ではなく、価値を伝えるための伝道ーー『文庫X』の本質はそこにあります。

『文庫X』現象の現場、さわや書店フェザン店を取材すべく、盛岡を訪れました。
JR盛岡駅ビル内に店を構える同店は、いつも地元客と観光客でにぎわう繁盛店。
全国各地で見慣れた“駅ナカの本屋”というイメージを超越した、本と情報、そして人が集う“知”のテーマパークでしたね。

「一人の書店員が出合える本には限りがあります。すべての本に平等に情熱を注ぐことは不可能です。だからは、本屋の数だけ、書店員の数だけ、違う売場があるのだと思います」
こう語るのは、さわや書店フェザン店の田口幹人店長。
同社は岩手・盛岡市を拠点に書店10店、雑貨店など2店を展開、フェザン店はその一番店です。
『文庫X』現象の震源地として名を馳せましたが、同店は出版業界では以前から「ベストセラー製造工場」「北の仕掛け人」として知られる存在です。

「横にある本が違うだけで、一冊の本は違う顔を持ちます。その違いは、書店員の蓄積とアンテナの高さから生み出されます。本屋は置かれた環境で店も変わります。本屋は、本を棚に並べて終わりではないのです。読者であるお客さまの手元に、本が届いて初めて完結します」と田口店長。

確かに、同店の「売場」は異形です。
入り口付近の一丁目一番地には、普通の店なら全国共通の売れ筋や新刊が面陳列されるところですが、同店では「岩手の魅力再発見してみませんか?」というPOPを従え、地元関連・郷土本が並んでいます。
さらに、そこには「なぜ今この本を陳列するのか」という主張が添えられているのです。

こうした“熱さ”は売場全体に及びます。
各コーナーそれぞれがPOPを媒体に激しく主張し、そこに並べられる本は他店では目に留まらないものばかり。
いえ、たとえ知られた本でも、饒舌なPOPが添えられていると、ここだけの特別な一冊に感じられるのです。

「ただ、ここで忘れてはいけないのは、けっして独りよがりにならないこと。自分たちの満足のためにやるのではありません。あくまでもお客さまのため。したがって、『この本をお勧めするのは本当に今なのか』ということを、理解していなければならない。もっといえば、店にやってくるお客さまのことを、きちんとわかっていないといけないのです」(田口店長)

ついつい個性豊かなPOPに目を奪われがちですが、フェザン店の真価は「この本をあのお客さまに出合わせたい」という熱意に満ちた品揃えであり、長江さんのような価値を伝えようと試行錯誤をいとわないスタッフにあります。
『文庫X』はそうした土壌から生まれた可憐な花の一つなのです。

その詳細は、9月1日発売、商業界10月号をお待ちください。

※転載元 笹井清範の商人応援ブログ「本日開店」
https://ameblo.jp/19660726/entry-12304023714.html

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