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楽天、東京電力パワーグリッドと業務提携 その狙いは?


制作:廣瀬 鉄之介(エネルギー・環境ジャーナリスト)

楽天、東京電力パワーグリッドと業務提携 その狙いは?

インターネットサービスを展開する楽天は10月3日、東京電力パワーグリッドと業務提携し、小規模事業所、商店、家庭などに対する低圧電力(50kW未満の電力)供給のアフターサービスを実施すると発表しました。楽天は、グループ会社の楽天エナジーを通じ、すでに50kW未満の小売り電力販売に進出しており、今回の東京電力パワーグリッドとの業務提携は、今後、低圧電力分野での電力販売からアフターサービスを含め、契約会社7万社、会員数9400万人といわれる“楽天経済圏”での電力ビジネス展開の布石とみられています。

4月から「まちでんき」販売に進出


楽天は、今年4月からの電力小売りの全面自由化を契機に、「まちでんき」の名称で楽天エナジーによる低圧分野への電力販売事業に乗り出しました。「まちでんき」は、沖縄、四国、北陸電力管内の3地域を除く全国7地域で電力を販売しています。

「まちでんき」は、電気使用量の多い事業所、商店などの法人向け及び一般家庭を対象にしています。東京電力管内のエリアでは、ひと月の電気使用量が1000kWh前後の飲食店、美容室などの場合、年間の電気代は、東京電力に比べ約2万5000円程度安くなるとされています。使用量が800kWhのオフィスなどでは年間1万8000円程度安くなります。

ユーザーへの宅内アフターサービスを無償実施


今回の東京電力パワーグリッドとの業務提携は、「まちでんき」のユーザーに対する宅内アフターサービスを無償で実施する内容です。東京電力パワーグリッドは、4月からスタートした東京電力ホールディング(HD)カンパニー制に伴う、送配電事業の新会社です。東京電力は従来、発電から送配電、電力販売までを一貫して手掛けていました。しかし、国の電力全面自由化方針により、電力事業が発電・送配電・電力小売りの3パターンに分かれることが決まり、東京電力はその方針のもとに、社内事業を3つの会社に分割するカンパニー制に移行することになったのです。従来の発電事業は、「フュエル&パワーカンパニー」(燃料・火力発電事業会社)、従来の電気販売事業は「カスタマーサービス・カンパニー」(小売り電気事業会社)となり、送配電事業を担当するのが、東京電力パワーグリッドというわけです。3つのカンパニーを統合する持ち株会社として、東京電力HDが存在します。

東京電力パワーグリッドは、送配電線や変電所の管理・運営をはじめ、そのメンテナンスなど、電力の安定供給の維持・向上を主要な業務としています。楽天が、東京電力パワーグリッドと業務提携したのは、パワーグリッドが、送配電事業の保守・管理などに専門的な技術・ノウハウの蓄積があるためです。と同時に、パワーグリッドが、東京電力のカンパニー制への移行によって、経営の自由度が増したことによると思われます。楽天はすでに電力小売り事業に進出しており、本来なら東京電力の販売会社であるカスタマーサービス・カンパニーと競合関係にあります。しかし、パワーグリッド自体は、電力を販売するのではなく、将来的に送配電事業の業務の拡大を迫られています。楽天との提携は、送配電のアフターサービス事業の形で、業務拡大に寄与するとみられています。

トラブルに「駆けつけサービス」で対応


楽天と東京電力パワーグリッドとの提携は、楽天の低圧電力供給サービス「まちでんき」の関東地域のユーザーに対して、電気の保守・点検サービスを行います。このサービスは、「まちでんきの駆けつけサービス」の名称で実施されます。駆けつけサービスは電気需要家の宅内で発生したトラブルに対応するもので、無償で行うのが特徴です。通常、需要家の宅内で発生したトラブルは、電気工事店や一般送配電事業者(従来の地域電力会社)が、有償で行うのが一般的です。宅外の場合は一般送配電事業者が対応しますが、宅内の場合は、電気工事店、一般送配電事業者で、1万円程度の有償対応がなされます。

「まちでんき」のユーザーの場合、宅内で分電盤や電線、コンセントといった設備に起因する停電など、電気に関するトラブルが発生した際、24時間、365日体制で、楽天エナジーの問い合わせ窓口への連絡により、東京電力パワーグリッドの担当者が現場に迅速に駆けつけて対応します。

ちなみに、「まちでんき」以外の電力ユーザーが、東京電力パワーグリッドから同様のサービスを受けた場合、平日日中対応では9000円、土日祝日及び夜間(午後7時~翌朝8時40分)の対応では1万3000円のサービス料を徴取されます。

楽天経済圏での電力ビジネス展開の突破口に


楽天の「まちでんき」におけるアフターサービスの推進は、楽天経済圏という巨大な電力ユーザー予備軍に対する電力ビジネス展開の突破口にしたいとの思惑が読み取れます。電力ビジネスの展開には、単に電力の販売という側面だけでなく、電力ユーザーに対するメンテナンス、アフターサービス、さらに、省エネなどの電力使用効率化のためのノウハウの提供、さらには、需要家拡大のためのさまざまなメリットの提供など、すそ野の広いサービス・事業が求められます。

楽天における電力ビジネスの戦略で注目されるのは、エネルギー需要開発のための有限責任事業組合の設立です。同事業組合は、2014年10月に、楽天及びグローバルエンジニアリング社(本社・福岡県古賀市)、東光高岳、エネットの4社で設立された事業組織体です。

同事業組合は、電力の全面自由化を踏まえた新たな電力ユーザーの獲得、ビジネスモデルの構築などを主要な目的としています。事業組合は、企業体組織よりも事業の円滑な推進や参加企業の自主性の確保、さらには迅速な意思決定が可能であることから、有限責任事業組合契約に関する法律に基づき設立したものです。

楽天は「世界一のインターネット・サービス企業をめざす」ことをグループの大きな目標に掲げており、企業及び消費者向けの多様なサービスを展開しています。インターネットにおけるマーケットプレイス(モノやサービスの取引市場)の構築、総合旅行サイト、金融・証券事業など、共通の会員プログラムを通じて事業を展開しており、全体の事業は、インターネット上における一つの経済圏を形成しています。

従来、需要家のニーズを電力ビジネスに活用


楽天は、これまで、楽天経済圏による需要家側のニーズを電力ビジネスに活用してきました。例えば、旅行会社の楽天トラベルの宿泊予約データを活用してグローバルエンジニアリングとの間で電力需給予測システムを開発しました。また、東光高岳及びグローバルエンジニアリングとは、企業向けデマンドリスポンス(需要側対応による電力需給調整)を推進してきました。

エネットは、新電力の最大手であり、発電事業はもとより、電気とIT(情報通信技術)を組み合わせたサービス提供に多くの実績を蓄積しています。楽天は、エネットと共同で、現在、デマンドリスポンスによるポイントサービス事業を実施しています。

楽天は、従来のこうした実績の上に、今回の東京電力パワーグリッドとの業務提携により、電力ビジネスに不可欠のアフターサービスという面での事業を加えた形になります。

まとめ


電力はITとの親和性がきわめて高いといわれます。ほとんど人手を介せずに、需要家に電気を届けることができます。また、省エネも、最近普及し始めたHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)やBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)、さらにスマートメーター(通信機能を備えた次世代電力計測装置)の登場によって、検針はもちろん、家庭やビル内のエアコン、照明などのエネルギーの最適管理は、自動制御が可能です。しかし、電力のメンテナンス、トラブル対応などのアフターサービスでは、人手に頼らざるを得ません。インターネットサービス事業の楽天も、アフターサービスの面で、東京電力パワーグリッドの技術・ノウハウ・人材を活用する必要があったといえます。

■著者■ 
廣瀬 鉄之介
エネルギー・環境ジャーナリスト
産経新聞社経済記者、編集委員として、経済・産業・エネルギー政策等の記事執筆を担当。退社後、経済産業省所管団体「原子力発電技術機構」及び「社会経済生産性本部」で原子力、その他エネルギー関係の広報、出版物の編集に携わる。原子力発電、電力自由化、再生可能エネルギー等に精通。

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