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東京電力、ガス事業で電力自由化の逆襲


制作:廣瀬 鉄之介(エネルギー・環境ジャーナリスト)

東京電力、ガス事業の自由化で逆襲へ

電力の全面自由化から1ヵ月あまりを経過しましたが、首都圏での顧客獲得合戦が一段とし烈化しています。首都圏を顧客基盤とする東京電力は、新電力会社に顧客を奪われるケースが増大し、守勢に立たされています。とくに新電力会社の東京ガスの攻勢が激しく、東京ガスは、自由化1ヵ月あまりで新たな契約の申し込み件数として30万件を突破する顧客数を獲得しています。そのため、東京電力は、来年4月のガス事業の自由化を控えて、ガス事業への逆襲と電力顧客の守勢挽回を図る方針です。東京電力の今後の戦略を追っていきます。

ニチガス、グループ3社と戦略的提携


東京電力は去る5月9日、日本瓦斯(ニチガス、東京)およびニチガスのグループ3社(東彩ガス・越谷市、東日本ガス・取手市、北日本ガス・小山市)と戦略的な業務提携を発表しました。ニチガスグループは、関東圏を中心に約100万件の顧客にガスを供給するガス事業会社です。LPガス(液化石油ガス)や都市ガスの販売のほか、ガス機器や住宅機器の販売、住宅設備機器のリフォームなどを手掛けています。

今回、戦略的業務提携を結んだのは、直接的には東京電力エナジーパートナー(東電EP)です。東京電力は、小売り電力の全面自由化を見据えて、昨年、カンパニー制を導入しました。全面自由化では、従来の電力事業者は、発電事業者、送配電事業者、小売り事業者の3者の類型に分類されるため、それを踏まえて、東京電力は社内組織をいち早く、カンパニー制に変更しました。従来の東京電力における燃料・火力発電事業部門は、「東京電力フュエル&パワー」に、送配電事業部門は「東京電力パワーグリッド」に、小売り電気事業部門は「東京電力エナジーパートナー」にそれぞれ変更されました。

カンパニー制で、事業を柔軟・迅速に推進


東京電力のこれら3カンパニーを統括する会社として「東京電力ホールディングス」が設立されています。いわゆる持ち株会社です。こうした東京電力のホールディング・カンパニー制の導入は、電力、ガス事業の自由化後の新たな事業環境を踏まえ、事業の柔軟かつ迅速な対応を実現することにねらいがあります。すなわち、より現場に近い各事業会社でそれぞれの意思決定を行う仕組みです。

この仕組みでは、持ち株会社のもとで、燃料・火力発電や一般送配電、小売り電気事業の各分野の事業会社は、それぞれの特性に応じて相互連携による経営資源の最適化や、資金調達、アセットマネジメント(資産の運用管理)の効率化などを目指します。

総合エネルギー企業の体制を整える


今回の東京電力エナジーパートナーによるニチガスおよびニチガスグループ3社との業務提携は、小売り電力全面自由化における新たな顧客獲得戦略と同時に、ガス事業の自由化を控え、電力とガスという二大エネルギーを経営の柱に据えることによって、総合エネルギー企業としての体制を整え、顧客の飛躍的な拡大を目指すことに最大の狙いがあります。

小売り電力会社をはじめすべての電力会社が加盟する電力広域的運営推進機関という組織がありますが、この機関は、電力会社の契約変更を支援するスイッチング(切り替え)システム運用によって、顧客の契約変更の全体像を把握しています。同推進機関が先ごろまとめた4月末までの切り替え申請件数は、電力会社10社の累計で81万9500件となっています。このうち、圧倒的に多いのが東京電力で、51万8100件、全体の63%に上っています。東京電力の場合、契約変更の中には、自社の料金プランへの変更も含まれるので、すべてが顧客の流出ではありませんが、それにしても相当の顧客が他社への契約切り替えを申請している姿が浮き彫りされています。

一方の東京ガスは、首都圏で最も多くの電力顧客を獲得した新電力会社であり、顧客獲得数をさらに伸ばす勢いです。東京ガスは、「電気もガスもサービスもお得!」というキャッチフレーズで首都圏での顧客獲得戦を挑んでいますが、顧客獲得の決め手となる電気料金の値段に関しては、低圧需要家でも、比較的電力消費量の多い家庭や商店、事業所などの料金価格を東京電力より割安に設定している点が、魅力の一つとなっています。

東京ガスの営業戦略で見逃せないサービスとして、「東京ガストリプルサービス割」があります。インターネットプロバイダー8社と提携して実施する通信料金の割引サービスです。このサービスは、東京ガスの「ガスと電気のセット割」に加え、インターネットサービスを契約すると、通信費だけで年間約1万2800円もお得になるというサービスです。インターネットプロバイダー8社との提携というのは、電力と通信との提携のケースとしては、社数がきわめて多く、通信会社の乗り換えを考えている顧客にとっては魅力的なサービスとみられています。

一般家庭だけでなく、商店、事業所、工場などの電力消費の多い需要家にとっては、こうしたさまざまなサービスと同時に、同社の充実した発電設備も電力の安定供給性の上で信頼度を高める要因となっています。新電力会社の中には、自前の発電設備を持たず、他の電力会社や工場などの余剰電力を調達して供給するところも多いのですが、東京ガスの場合、自前で保有する発電設備規模は、現在、約160万kWと、新電力会社の中では最大級です。

東京電力にとって、東京ガスが脅威


東京電力にとっては、このように多くの発電設備を抱え、電力の十分な供給量を確保している東京ガスは、大きな脅威となっていることは間違いありません。東京電力の既存の顧客は、大部分が東京ガスのユーザーでもあります。電力とガスを一緒に供給してくれ、しかも電気料金が割安となると、顧客の“東電離れ”に拍車がかかることにもなりかねません。

東京電力にとって厳しい局面が予想される現在、局面転換の戦略として打ち出したのが、ガス事業への逆進出という新たな方法です。ガス事業は、電力全面自由化の1年遅れで、来年4月からの実施が決まっています。経済産業省によると、電力とガスの全面自由化は、新たに「総合エネルギー市場」を創出することに最大の狙いがあります。

日本のエネルギー市場は従来、電力、ガス、石油、熱供給などの形で、それぞれ制度的な「市場の垣根」が存在していました。そのため、法律的にも、事業的にも、相互の企業参入は認められませんでした。しかし、海外では、米国、イギリス、ドイツ、フランスなどの企業は、総合エネルギー企業として、エネルギー資源開発から、末端の流通・販売事業に至るまで幅広い事業を展開しています。今後、国内だけでなく、海外市場でも日本企業が欧米企業と競争していくためには、まず国内で、市場の垣根をなくし、企業の相互参入を促すことが課題となっています。

ガス自由化で約2兆4000億円の市場創出


市場の垣根をなくすことは、新たな市場の創出にもつながります。電力の小売り全面自由化によって、約8500万件の需要家が自由化の対象となり、それにより、約8兆円の電力市場が創出されると見込まれています。ガスの全面自由化が実施されると、経産省は約2600万件の需要家が自由化対象となり、それにより、約2兆4000億円の市場が創出されるとみています。

相互参入では、日本のLNG(液化天然ガス)輸入量のうち、その7割は火力発電用として電力会社が輸入しており、東京電力はその3割を占めています。そのため、東京電力は、ガス事業進出への基盤が整っているのです。今回のニチガスグループとの戦略的業務提携では、ニチガスおよびニチガス3社が販売する都市ガスを全量(LNG換算約24万トン/年)東京電力が供給することになります。また、それに伴い、電力とガスのセット販売を進め、関東圏一円で新たな電力顧客の獲得を狙う方針です。

まとめ


関東圏で約100万件の需要家を抱えるニチガスの顧客は、東京電力にとって、極めて魅力ある需要家といえます。すべての需要家が東京電力の顧客になるわけではありませんが、首都圏で守勢に立たされている東京電力にとっては、顧客獲得の大きなチャンスといえるでしょう。

■著者■ 
廣瀬 鉄之介
エネルギー・環境ジャーナリスト
産経新聞社経済記者、編集委員として、経済・産業・エネルギー政策等の記事執筆を担当。退社後、経済産業省所管団体「原子力発電技術機構」及び「社会経済生産性本部」で原子力、その他エネルギー関係の広報、出版物の編集に携わる。原子力発電、電力自由化、再生可能エネルギー等に精通。

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