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国や自治体のZEH普及支援策の背景に何が?


制作:廣瀬 鉄之介(エネルギー・環境ジャーナリスト)

国や自治体のZEH普及支援策の背景に何が?

ZEH(ゼロ・エネルギー住宅)は、ネットでエネルギー消費量がゼロすなわち光熱費ゼロの住宅を指しますが、このところ、国や地方自治体のZEH普及に向けた支援策が本格化しています。ZEHは、省エネの観点から、その普及・促進が課題になっていますが、ここにきての支援策の本格化の背景には、FIT制度(再エネの固定価格買取制度)見直しの要因を見逃せません。ZEH支援策の内容と、FIT制度見直しの方向を探っていきます。

国土交通省は4月下旬、平成28年度の地域型住宅グリーン化事業におけるグループの公募を開始しました。地域型住宅グリーン化事業というのは、地域の中小工務店が連携して取り組む省エネでしかも耐久性に優れた木造住宅・建築物の普及促進を通じて、地域の活性化と環境負荷の低減を目的とした事業です。

国の補助金は1戸当たり165万円


グループは、流通事業者、建築設計事務所、中小工務店などが連携して取り組むことを条件としており、省エネ型の耐久性に優れた木造住宅に加え、3世代同居への対応も公募の要件としています。補助対象となる木造住宅・建築物の種類と補助金額は次の通りです。

①長寿命型(長期優良住宅:木造、新築)1戸当たり100万円
②高度省エネ型(認定低炭素住宅:木造、新築)同100万円
③高度省エネ型(性能向上計画認定住宅:木造、新築)同100万円
④高度省エネ型(ゼロ・エネルギー住宅:木造、新築および改修)165万円
⑤優良建築物型(認定低炭素建築物等一定の良質な建築物:木造、新築)1平方m当たり1万円
(注)①~④については、主要構造材(柱・梁・桁・土台)の過半に「地域材」を使用する場合20万円、キッチン、浴室、トイレまたは玄関のうちいずれか2つ以上を住宅内に複数個所設置する場合30万円を上限に、それぞれ予算の範囲内で加算します。

グループ募集の受付期間は6月3日まで、熊本地震の被災地に所在する場合は締め切り後も申請を受け付けます。採択通知は6月下旬で、ゼロ・エネルギー住宅の補助対象戸数は7月下旬に別途通知されます。

グループ募集の補助金額では、ゼロ・エネルギー住宅が突出していることが目を引きます。

神奈川県も40万円を上限に補助制度


国の支援策に続いて、いくつかの地方自治体でも支援に乗り出しています。そのうちの神奈川県のケースをご紹介します。神奈川県は、エネルギーの地産地消を促進する取り組みとして、「蓄電システム導入費補助」「ZEH導入費補助」「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)導入費補助」の3件について、個人や法人を対象に公募を始めました。募集期間は蓄電システムに関しては5月20日まで、ZEHに関しては2017年2月28日までとなっています。

ZEHの補助額と設置要件に関しては、導入する設備ごとの補助額を計算して合計します。1戸当たりの補助上限額は40万円。各設備については、必須設備として「高断熱外皮」「太陽光発電システム」「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」とされており、高断熱外皮の上限額は20万円、太陽光発電システム、HEMSはそれぞれ5万円となっています。そのほか、エネファーム(家庭用燃料電池システム)空調、給湯設備等に関しても、設置する場合は補助対象となります。

FIT制度の見直しが背景に


ZEHの導入促進は、省エネ、節電の観点から従来から政策課題となっていますが、ここにきての国、自治体による一段の政策支援の背景には、FIT制度の見直しが影響しているのです。FIT制度は2012年7月から、再生可能エネルギーの飛躍的普及をめざして導入された制度です。太陽光発電、風力発電、地熱発電、小水力発電、バイオマス発電の5種類の自然エネルギー発電を対象に、電力会社が一定の固定価格で10年~20年という長期間、発電電力を買い取ることを義務づけた制度です。

FIT制度は、クリーンで、しかも国産エネルギーでもある再エネ電力の導入拡大を図る、いわば切り札として実施されたのです。再エネ電力の発電コストは、火力発電などに比べて高いので、導入拡大を図るためには、発電事業者に費用の一部を補填しなければなりません。その補填は、電力会社の再エネ電力買取費用から支払われますが、買取費用は、賦課金という形で、国民が支払う電気料金に上乗せされているのです。つまり、国民全体の負担で、電力会社が再エネ発電事業者から電気を買い取るという制度です。

再エネ発電事業者にとっては、コストの補填によって、電力会社に電気を買い取ってもらえるので、安定した収益を期待できるというわけです。そのため、再エネ事業は同制度によって大きく拡大したのです。とくに、太陽光発電事業の拡大には目覚しいものがあります。

太陽光発電の導入量は3年間で5倍


経済産業省の調べによると、太陽光を除く他の再エネ電力の場合、その導入規模は、制度実施前の2012年3月と、2015年3月の導入(設備規模) の比較では、せいぜい10~30%程度の増加に過ぎません。ところが、太陽光発電の場合は、同じ期間で、なんと5倍近い増加ぶりです。

 

太陽光発電は、設備の設置が比較的容易で、短期間に設置できるという点がメリットですが、何より国が、買取制度における太陽光発電の買取価格を他の再エネ電力より、政策的に高めに設定したことが導入急増の背景にあることを見逃せません。買取価格は毎年、再エネの普及状況や、賦課金負担の度合いなどを踏まえて政策的に決められます。

太陽光発電の買取価格は、制度スタート当初には、10kW未満の住宅用でkWh単価が42円と、家庭用電気料金の2倍近い価格が設定されました。その後、買取価格は少しずつ引き下げられ、2016年度では31円となっています。10kW 以上の事業用の場合も、当初kWh単価が40円で設定され、その後順次引き下げられ、2016年度では24円にまで引き下げられました。それに対して、風力発電の場合は20kW未満の設備で当初55円に設定されて以降、買取価格は2015年度まで変わっていません。その他の再エネ電力も同様です。

賦課金総額は2015年度1兆3000億円に


買取制度では、このように太陽光発電の再エネ買取価格が高く設定されたことが、太陽光発電設備の導入拡大の要因となったのです。それによって、電気料金に上乗せされる賦課金総額も急増しました。経済産業省によると、2012年度の賦課金総額は1306億円でしたが、2013年度では3289億円、2014年度には6520億円と、買取が増えるにつれ、ほぼ倍増する形となりました。2015年度には、1兆3222億円に膨れ上がる見通しです。

1世帯当たり負担額に換算すると、標準家庭(月間電気使用量300kWh)の月額賦課金額は2012年度で66円だったのが、2013年度には105円、2014年度には225円に上昇しました。2015年度には474円にまで増える見通しです。家庭の負担はうなぎのぼりといってよいでしょう。

太陽光発電の導入を増やせば増やすほど、太陽光発電を導入していない家庭も含めて、賦課金による電気料金負担が増大するというジレンマが生じているのです。経産省は、こうした状況を踏まえて昨年12月、「再エネ導入促進関連制度改革小委員会」で、改革の方向をまとめました。その中では、太陽光発電に偏重した制度の是正を図るとともに、太陽光発電については、「FIT制度とは別に、ZEHやエネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入促進を図るなど、省エネ施策と一体となった形での支援策の充実を図るべきである」と指摘しました。そうした指摘が、国や自治体によるZEH普及の支援策につながったといえます。

まとめ


太陽光発電を中心としたFIT制度はいま、転機を迎えています。電力の全面自由化によって、太陽光発電などの再エネの選択は、消費者、事業者の自由とされる時代です。国が政策的に支援する必要性は次第に薄らいでいくと思われます。

■著者■ 
廣瀬 鉄之介
エネルギー・環境ジャーナリスト
産経新聞社経済記者、編集委員として、経済・産業・エネルギー政策等の記事執筆を担当。退社後、経済産業省所管団体「原子力発電技術機構」及び「社会経済生産性本部」で原子力、その他エネルギー関係の広報、出版物の編集に携わる。原子力発電、電力自由化、再生可能エネルギー等に精通。

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