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エネルギー革新戦略の中身とその狙いは?


制作:廣瀬 鉄之介(エネルギー・環境ジャーナリスト)

エネルギー革新戦略の中身とその狙いは?

経済産業省は去る4月19日、「エネルギー革新戦略」を発表しました。それについて、新聞等のマスコミ報道では、「名前が仰々しい割には、内容が総花的」といった批判や、「経産省の従来のエネルギー施策の寄せ集め」など、手厳しい意見が目立ちます。そこで、今回のエネルギー革新戦略の内容を深堀りしながら、その意図する狙いを探っていきます。

戦略の主な柱は、「徹底した省エネ」「再エネの拡大」であるといえます。つまり、省エネを一段と加速しながら、自然エネルギーなどクリーンな再生可能エネルギーの導入を拡大するという政策です。しかし、それらの政策は、従来からも打ち出され、様々な形で施策化されています。戦略で示された施策の中身に関しては、確かに新味のある施策や方向が打ち出されているものも見られます。しかし、なぜこの時期に、そうした戦略が打ち出されたのか、という点です。

電力小売り全面自由化との関連性


その狙いの一つは、4月1日から実施された電力小売りの全面自由化との関連性です。全面自由化は、従来の高圧分野に加えて、家庭、事業所、商店などの低圧分野を自由化対象とするもので、これによりすべての電力需要家が、自由に電力会社や、サービス・料金プランを選ぶことができます。電力ビジネスに新規参入する企業も、どの業種、業態からも自由に進出することができます。

経産省の産業政策にとって、電力・エネルギー分野は、自ら行政のコントロールの及ぶ数少ない政策分野の一つです。電気事業法という、いわば電力行政における憲法ともいうべき法律によって、政策は経産省の意のままといってよいほど、同省の裁量によって行われてきました。高度経済成長を支えた電力供給の安定確保という大義名分のもと、電力会社に地域独占体制を認める代償として、電力料金の認可は経産省の手にゆだねられてきたのです。

電力会社は、経営の根幹ともいえる料金査定権限を経産省に握られていることから、経産省の方針や政策に楯突くことは許されませんでした。そうした戦後一貫して続いた同省の電力・エネルギー政策が、今回の全面自由化によって、180度の転換を余儀なくされたのです。いうまでもなく、国際的に高水準といわれる日本の電力料金に対する風当たりや、他の産業分野がいずれも自由化されている一方で、電力・エネルギー分野だけが行政の管理下にあるのは不合理との批判が高まったことが、大きな背景となっています。

電力の全面自由化は、言ってみれば、経産省の“金城湯池”の業界分野がなくなることを意味します。電力・エネルギー分野が自由化されれば、経産省の指導や行政介入は不要というのは、だれしも当然と考えます。しかし、そこはしたたかな経済官僚の考えること。電力・エネルギー分野が表向き自由化されても、実質的な経産省の影響力や権限を維持する。そうした戦略が、実は、今回のエネルギー革新戦略の底流に読み取れるのです。

エネルギー革新戦略の基本的な考え方の中にもその意図が見え隠れしています。「電力小売り全面自由化により競争が進む中でも事業者任せではなく、政府としても総合的な政策措置をバランスよく講じていくことが不可欠であり、エネルギーミックス(長期エネルギー需給見通しにおける電源構成)の実現を図るため、省エネ、再エネをはじめとする関連制度を一体的に整備する『エネルギー革新戦略』を策定することとした」とされています。

省エネ法や高度化法で引き続き規制、指導


省エネ、再エネなどの関連制度を一体的に整備する具体策として経産省が運用するのが、省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)やエネルギー供給構造高度化法(エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律)です。これらの法律は、省エネの徹底や、再エネすなわち非化石燃料の利用促進などを目的として、関係業界、関係企業にさまざま規制や指導を行うことを意図しています。

電気事業法自体も、全面自由化が実施されたとはいえ、消費者保護を目的として、2020年までは現行の規制料金体系を維持する、経過措置を盛り込んでいます。また、新電力会社の電力事業への参入に際しては、経産省は小売り電気事業者としての登録を義務付け、厳しい登録審査を行うなど、事実上、同省のコントロールを維持する仕組みを残しています。

アベノミックス実現への支援


エネルギー革新戦略における、電力自由化との関連性の意図と同時に見逃せないのは、アベノミックス実現に向けたエネルギー・環境面からの支援です。アベノミックスは、安倍政権誕生当初こそ、大胆な金融緩和政策によって、景気回復の効果をあげてきたものの、政権4年目の今年に入って、個人消費や株式市場の低迷が続き、曲がり角に差し掛かっているとみられています。とくに、夏の参院選挙を控えて、安倍政権としては、アベノミックスでの起死回生の一打がほしいところです。

エネルギー革新戦略は、直接アベノミックスを後押しする政策ではありませんが、革新戦略に盛り込まれた省エネ、再エネ、技術開発などのエネルギー関連投資や効率改善投資を推進することによって、2030年度には28兆円の投資効果を期待できる、としています。

安倍首相は昨年9月に、アベノミックスの第2ステージとして、「新3本の矢」を掲げ、それによって、「名目GDP600兆円の達成」を打ち出しました。

GDP600兆円に対して、エネルギー関連投資の28兆円は、力足らずの感もありますが、それでも、エネルギー革新戦略の基本的な考え方では、エネルギー関連投資は、GDP600兆円への貢献と、CO2排出抑制を両立させることを目指すものである、と指摘しています。そうした意味で、今回のエネルギー革新戦略は、アベノミックスへの“応援歌”であり、経産省自身の影響力確保を狙たものといえます。

流通・サービス分野にトップランナー制度拡充


とはいえ、エネルギー革新戦略の中身では、いくつかの点で、評価すべき点も見られます。その一つは、徹底した省エネ施策における産業トップランナー制度の流通・サービス業への拡充です。トップランナー制度は、家電、自動車等の製品に対し、その時点における最もエネルギー効率のよい製品をトップランナーとして位置づけ、業界全体の省エネレベルの底上げを図る制度です。産業分野でこの制度は、省エネの推進に大きな成果をあげていますが、その制度を、流通・サービス業に導入し、今後3年間で流通・サービスを含めた全産業の7割に拡大することを掲げています。その第1弾として、戦略では、コンビニ業界での制度の運用を開始し、さらに、今年度中にホテルなどにも対象を広げるとしています。

住宅に関しては、2020年までに新築住宅の半数以上の住宅でネット・ゼロ・エネルギー住宅(正味の光熱費がゼロになる住宅)の実現を目指します。そのために、太陽光発電や燃料電池、さらには、蓄電池の導入などへの政策支援を図ります。

日本のエネルギー消費構造は、大きな変化を遂げており、かつての産業中心から、現在は流通・サービスなどの業務部門、家庭部門、自動車等の運輸部門の消費の伸びが大きくなっています。そうした構造変化に対応して、省エネの軸足を流通・サービス、住宅などにシフトすることは、合理的な判断と思われます。

まとめ


エネルギー革新戦略は、電力小売りの全面自由化のもとで、経産省が引き続き影響力を発揮するための枠組みであるとみることができます。とはいえ、エネルギーを取り巻く環境や消費構造は大きく変化していることも事実です。環境変化や構造変化に適切に対応した政策を打ち出すことも、行政の役割の一つです。エネルギー革新戦略は、そうした点で評価すべき点も多いと思われます。

■著者■ 
廣瀬 鉄之介
エネルギー・環境ジャーナリスト
産経新聞社経済記者、編集委員として、経済・産業・エネルギー政策等の記事執筆を担当。退社後、経済産業省所管団体「原子力発電技術機構」及び「社会経済生産性本部」で原子力、その他エネルギー関係の広報、出版物の編集に携わる。原子力発電、電力自由化、再生可能エネルギー等に精通。

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