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宅食と電力小売りのセットで家族の見守りサービス


制作:廣瀬 鉄之介(エネルギー・環境ジャーナリスト)

宅食と電力小売りのセットで家族の見守りサービス

電力小売りの全面自由化によって、さまざま業種の企業が電力ビジネスに参入する動きが活発になっています。電気とガス、電気と通信など、セット販売によるサービスの多様化が進展していますが、その中で、異色のサービスとして、宅食と電気をセットにした遠隔地の高齢者の見守りサービスが関心を集めています。宅食とセットにした電力小売りの見守りサービスとはどんな仕組みなのか、その内容や経緯、目的などを探っていきます。

ワタミが電力小売り事業に参入


宅食と電力小売りの見守りサービスを展開するのは、外食・居酒屋チェーンのワタミです。ワタミはこのほど、4月の電力小売りの全面自由化に向け、一般家庭や商店、小規模事業所などを対象にした、電力小売り事業に参入することを明らかにしました。ワタミは、国内外で、外食店を展開していますが、その関連事業として、高齢者や一人暮らし世帯向けのお弁当宅配サービス、いわゆる宅食サービスを実施しています。さらに、食材生産のための、有機農業の推進のため、全国の農業生産者と連携した農業事業にも取り組んでいます。

持続可能な循環型社会づくりを目指す


「電力小売り」と「居酒屋チェーン」とは一見、何の関係もないように思われますが、農業生産者と連携した農業事業にみられるように、持続可能な循環型社会づくりを目指すという点に、その狙いが読み取れます。ワタミグループは1999年に外食産業としてはじめてISO14001(環境管理の国際規格)を取得し、グループとしての環境宣言を発表しています。同社の経営理念の一つに「限りある資源を有効活用し、持続可能な循環型社会づくりに貢献する」とありますが、そうした理念から、環境活動への積極的な取り組みが生まれたととみられます。

同社の電力小売り事業もそうした理念に基づくもので、小売り電力は、いずれもCO2を排出しない再生可能エネルギー電力です。電力事業は、同社の子会社の「ワタミファーム&エナジー」が手掛けていますが、「ワタミファーム&エナジー」はその社名のとおり、農業事業とエネルギー事業が二つの柱です。

風力、太陽光などの再エネ発電に取り組む


再生可能エネルギー電力の一つは、風力発電事業です。ワタミグループは、2012年3月より、秋田県にかほ市の市民風力発電プロジェクトに参画したほか、これまでに秋田県で合計3基6000kWhの発電を行っています。発電電力は、再生可能エネルギー固定価格買取制度を活用し、全量、東北電力に売電しています。

再生可能エネルギーの他の一つは、太陽光発電事業です。同社の太陽光発電事業には、ルーフソーラーすなわち施設の屋根に設置する太陽光発電と、地上におけるメガソーラー(大規模太陽光発電)の展開の二つのタイプがあります。ルーフソーラーは、各地にある同社の厨房センターの屋根に太陽光発電システムを設置するもので、2015年度末現在、6ヵ所のセンターで稼働中です。発電した電力は全量、電力会社に売電しています。

メガソーラーは、2013年度に(株)CSSと連携して、北海道勇払郡厚真町で着工し、2015年4月より本格稼働しています。発電容量は1万9000kW、年間発電量は1600万kWhです。また、勇払郡むかわ町でも、2016年2月に2基目のメガソーラーが完成しました。発電容量は1万9000kW、年間発電量は2000万kWhに達しています。

5月から家庭、商店、小規模事業所に電力販売


ワタミグループは、こうした再生可能エネルギーを中心とした発電事業をベースに、子会社であるワタミファーム&エナジーによる電力小売り事業に進出することになったわけです。今年3月から一般家庭や商店、小規模事業所などを対象に、小売り予約の受付を開始し、5月から実際の電力販売をスタートさせる予定です。

同社の電力小売り事業で注目を集めているのが、電力小売りに伴う、離れた家族への見守りサービスです。ワタミグループは、外食店舗の展開のほか、宅食サービスにも取り組んでおり、1日に全国約22万人の顧客に日替わりのお弁当を届けています。お弁当の利用客は、高齢者や一人暮らしの家庭が中心で、家族や親せきは離れた地域に住んでいるケースが多いといわれます。とくに高齢者の親から離れて住んでいる息子、娘世帯にとっては、親の暮らしぶりや健康状態が気になります。

電力購入とセットでメールサービス


ワタミグループは、そうした息子、娘世帯のニーズに対応するため、宅食利用者を対象に、電力購入のセットメニューとして電力供給先の家庭で、電気が使用されたことを家族にメールで知らせるサービスを実施することにしました。このメールは、「おはようメール」と呼ばれ、1日1回、正午までに電気の使用状況を、登録した家族などのメールアドレスに自動送信するサービスです。離れて住む家族は、一人暮らしの高齢の親や、高齢世帯の電気使用状況を通じて、暮らしの状況や健康などを把握することができるのです。

高齢者の見守りサービスは、「お弁当を届ける」という宅食サービスに、電力小売りをうまくドッキングさせたビジネスともいえます。もちろん、宅食利用者に、電気を買ってもらわなければなりませんので、電気料金がお得にならなければ意味がありません。

電気を多く使うほどお得になる料金体系


ワタミグループが電力小売り事業への進出に際して発表した電気料金によると、基本料金は、東京電力の従量電灯Bと比較すると、30A~60Aまでの各段階で同額となっています。しかし、従量料金である電力使用量料金は、月120kWhまではkWh単価が19.37円、120kWh~300kWhまでが25.83円と、いずれも東京電力の従量電灯Bに比べると0.3%お得になっています。月300kWhを超える分は26.94円と、10%もお得になります。つまり、ワタミグループの電気料金は、電気を多く使うほどお得になるというわけです。地域電力会社の料金体系は、これまで省エネ・節電促進の観点から、使えば使うほど割高になっていましたが、ワタミの場合は、それとは逆の体系になっているといえます。よりわかりやすくいうと、現在、30Aの契約で月額6000円の電気代を支払っている家庭の場合、ワタミに切り替えると、年間のお得度は、193円ですが、同じ30A契約で月額1万6000円の電気代を支払っている家庭では、年間のお得度は1万72円にもなります。

スマートメーターで見守りサービスに弾み


電気代がお得になるうえ、高齢者の見守りサービスを受けられるという点が、ワタミグループの電力小売りのセールスポイントといえます。高齢者の見守りサービスについては、今後、小売り電力の全面自由化の進展に伴うスマートメーターの普及によって、大きく弾みがつく見通しです。スマートメーターは通信機能を持つ次世代電力メーターであり、無人の遠隔検針や省エネ、節電だけでなく、30分ごとの電気使用量のウオッチを通じて、高齢者の見守りサービスや介護などさまざまなサービスに利用されることが期待されています。

まとめ


居酒屋チェーン店のワタミの電力ビジネスへの進出は、電力関係者には意表を突くビジネスとして受け止められています。しかし、同社のこれまでの事業展開、経営理念を踏まえれば、電力小売り事業への進出は、その延長線上の事業として、ある程度予想されたビジネスともいえます。とりわけ宅食と電気販売の組み合わせは、今後の電力ビジネスの多様な展開、例えば、福祉、医療、防災、セキュリティといった分野での事業展開にあたっての示唆を与えることになりそうです。

■著者■ 
廣瀬 鉄之介
エネルギー・環境ジャーナリスト
産経新聞社経済記者、編集委員として、経済・産業・エネルギー政策等の記事執筆を担当。退社後、経済産業省所管団体「原子力発電技術機構」及び「社会経済生産性本部」で原子力、その他エネルギー関係の広報、出版物の編集に携わる。原子力発電、電力自由化、再生可能エネルギー等に精通。

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